電脳魔法商会 書籍部
ショーシャンクの甘口書評(?)
世の中いろんな本があり、書き方読み方人それぞれ。書評と呼ばれる文章も、本と一緒にあふれてる――まあ、最近読んだ本の感想文のようなモノですが(^_^;)「辛口の書評」というのは割合よく聞くので、ここは一つ「甘口」に(安直!)、ボロクソに言われている本でもどっかにイイトコロがあるかもしれないし、そういう部分を探しながら書いてみよう・・・そういうコーナーです。(とかいいつつ、世間でボロクソに言われている本はあんまり取り上げていないような気もしますが(^^;))
濱岡稔「わだつみの森」
時雨沢恵一「キノの旅−The Beautiful World−」
時雨沢恵一「キノの旅U−The Beautiful World−」
ポーラ・ゴズリング「モンキー・パズル」
山田正紀「阿弥陀(パズル)」
乙一「死にぞこないの青」
乙一「失踪HOLIDAY」
乙一「GOTH リストカット事件」
麻耶雄嵩「まほろ市の殺人・秋 闇雲A子と憂鬱刑事」
コリン・デクスター「キドリントンから消えた娘」
平石貴樹「笑ってジグゾー、殺してパズル」
心の謎を探る会・編「精神分析が面白いほどわかる本」
森博嗣「すべてがFになる」
高田崇史「QED 東照宮の怨」
舞城王太郎「熊の場所」
氷川透「密室は眠れないパズル」
鈴木輝一郎「何がなんでも作家になりたい!」
山田正紀「僧正の積木歌」
西澤保彦「聯愁殺」
*目次
マイケル・S・リーフほか「最終弁論」
コリン・デクスター「ウッドストック行き最終バス」
ジル・マゴーン「騙し絵の檻」
氷川透「人魚とミノタウロス」
ハリイ・ケメルマン「金曜日ラビは寝坊した」
有栖川有栖「マレー鉄道の謎」
キャロライン・グレアム「蘭の告発」
黒田研二「嘘つきパズル」
林泰広「見えない精霊」
深町眞理子「翻訳者の仕事部屋」
ノーム・チョムスキー「9.11 アメリカに報復する資格はない!」
西尾維新「クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い」
辺見庸「単独発言」
菊池良生「犬死 歴史から消えた8人の生贄」
筒井康隆「家族八景」
戸梶圭太「牛乳アンタッチャブル」
戸梶圭太「溺れる魚」
高田崇史「QED 式の密室」
田中啓文「鬼の探偵小説」
佐野洋「折々の犯罪」
富増章成「空想哲学講義」
アガサ・クリスティー「ABC殺人事件」
西澤保彦「両性具有迷宮」
松尾由美「バルーン・タウンの殺人」
柴田よしき「Vヴィレッジの殺人」
鯨統一郎「CANDY」
ルース・レンデル「女を脅した男」
岬兄悟・大原まりこ編「SFバカ本 人類復活篇」
中島らも「とらちゃん的日常」
ジョン・フラー「巡礼たちが消えていく」
過去ログ:
98年7月に読んだ本
98年8月〜10月に読んだ本
98年11月〜99年3月に読んだ本
99年4月〜99年10月に読んだ本
99年11月〜00年3月に読んだ本
2000年4月〜2000年10月に読んだ本
2000年11月〜2001年10月に読んだ本
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濱岡稔「わだつみの森」
「さよならゲーム」でデビュー、既成のものとはひと味違った本格ミステリを書き続けるはまっちさんの、第二作目。
ランキングにこそ入らなかったけれど、2003年版の「このミス」でも取り上げられていました。知り合いとしてはなんとも鼻高々(笑)。ちなみにストーリーなどは、はまっちさん自らが記された詳しいものがあるので、こちらをご参照下さい。
それはともかく、作品の感想ですが・・・
第一作目、「さよならゲーム」の感想をこのサイトで記した際、一定の評価はしつつもかなり辛口のことを書いたのですが、うん、二作目は、私は前作の欠点だと指摘した部分については、ほぼ完璧にクリアしており、プロット、文章、ストーリーテリング、全てテンポ良く心地よく、楽しませてもらいました。そして、「さよならゲーム」で見せた伏線張りのテクニック、ジャンルを限定せずしかもハイレベルなペダントリーなどは健在。ラストのどんでん返しも含めて、はっきり言って非の打ち所がありません。いや、お世辞ではなくて(笑)。
それに私、今回はかなり登場人物に感情移入してしまいまして、なんか普通の館モノ・ミステリのように一人、また一人と犠牲者が出るたび、心が痛むというか心底哀しいというか。彼らの死がどうしてもサスペンスやスリルを盛り上げるためのスパイスとしては捉えられなくて(普通、こういうミステリには「死んで当然」という感じの人間が複数いるものなんですが、そんな人この作品には存在しなかった。少なくとも私にとっては)。このあたりは、作中人物に対する作者の優しい視線の表れだと思いますし、作品全体に流れる詩情がそうさせたのだと思います。前作では逆に、その「思い入れ」が暴走してしまって、作品世界と読者の間の壁になっていた感じもするのですが、それも今回は見事プラス要素に化けて、作家・濱岡稔氏の「真のスタート」がこの作品だと、しみじみ感じる次第です。
ただ、それらはまっちさんの成長(なんか生意気な言いようだなあ・・・>自分)を全面的に評価した上で、やはり気になるところもありまして。
例えばこの作品の真相についてなのですが、ネタバレしないで書くのは難しいのですが、この方向性は――某講談社ノベルズ系人気作家様の手法と、いささか被っているような気がします。また、「このミス」でこの作品を取り上げた村上貴史氏も「綾辻行人『霧越邸殺人事件』直系とよぶにふさわしい。あまりに直系すぎる点が気にはなるが(以下略)」と指摘しています。つまり、作品単体としては極めて完成度が高いながら、『新しさ』『インパクト』『衝撃度』『独自性』という点で、ちょっといま一つなのでは――?なんかメフィスト賞審査担当の編集者様のような物言いをしておりますが(苦笑)、無論、インパクトばかりが作家の「個性」だとは思いません。しかしながら、そのあたりで作品を評価したがる読者層がいるのも多分また事実で、そういう層をも思いっきり惹きつけてやまないような濱岡氏独自の魅力をどう創造していくのか――?これが、濱岡氏が今後日本のミステリ界でどう活躍していくかのキーになるかと思います。
はまっちさん、これからも応援してます!というか応援させてください(笑)!もっとスゴイ作品を読ませてください!
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時雨沢恵一「キノの旅−The Beautiful World−」
二丁のパースエイダー(この作品世界における拳銃のこと)を手に、言葉を話す二輪車エルメスと共に、様々な国を巡って旅を続ける人間、キノ。二人(?)が目にする世界は、愚かで醜く誤りに満ちて、だがしかしそれ故に、正直で美しく、優しさに満ちている。連作短編の形で語られる、異色のファンタジー。
いや、日記でも以前書いたのですが、本気で電撃を舐めてはいけないと認識を改めました。というより、ジュニア小説全般に対して、と言えるかも。それくらいこのシリーズのレベルは高い気がします。異世界ファンタジーではあるのですが、くどくどしい世界設定・説明のようなものはなく、描写も控えめ。キノとエルメスが訪れる国についても、「人の痛みがわかる国」「多数決の国」など、極めてシンプルに戯画化されています。しかしそれが故に、ストレートで人間の根元を鋭く抉っており、各編の結末もインパクト強烈。ですが、こういう贅肉のない作風で、しかもショートショート並の長さで、それも一定以上のクオリティを保ちつつ多く書き続けているというのは、スゴイ才能だと思います。この方私と同い年なんですが、正直嫉妬しまくりです(笑)。
今度アニメ化されるそうなんですが、この透明感にあふれた世界観をどのように表現するのか、楽しみであり、同時に不安でもありますね。うちの地域ではやってくれるのかなあ。
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時雨沢恵一「キノの旅U−The Beautiful World−」
人間キノと二輪車エルメスの、不思議な旅のシリーズ2冊目です。
今回も、小粒だがぴりりと辛い作風は健在。素晴らしいです。ちなみにこの一冊の中で最も印象に残ったのは、あまりにも哀しくも美しい、そして限りなく優しい結末が素晴らしい「優しい国」。ちなみに先日「電撃hp」で行われた「国」人気投票でも、この国・エピソードが一位でした。
今この文章を書いている時点で、このシリーズは6冊目まで発売されていますが、本気で続きが楽しみです。
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ポーラ・ゴズリング「モンキー・パズル」
厳冬の大学町で起こる、「見ざる」「言わざる」「聞かざる」に見立てられた、おぞましい連続殺人。挑むはストライカー警部補。「猿の殺人鬼」と呼ばれる凶行の、目的は?犯人は?
サスペンス名手として名高いゴズリング、今まで読もうか読むまいか悩んでおりましたが、設定が実に私好みなこの作品を発見し、チャレンジしてみました。
結果は――うーん、この作品、英国では評価高いんですよね?
ですが、私にはちょっと(笑)。衝撃的な過去を経て再会し、惹かれあうようになるストライカー警部補とケイトの恋愛ドラマも、大学内の人間模様もいいけれど、私はタイトルからして、「猿」がキーワードの緻密なパズラーとしての展開を期待していたのに、その点では全く裏切られましたからねえ。おまけに、展開がおそろしくのろくて、「猿の殺人鬼」という呼称が出てくるのは、後半入って相当なトコロ。うーん、期待する箇所が違ったので、楽しめなかったということなんだと思いますが・・・ ゴズリング、このほかにもいくつか買ってあるんですが、読もうか読むまいか・・・
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山田正紀「阿弥陀(パズル)」
「恋人がエレベーターに乗ったまま戻ってこない」という会社員の男の訴えを聞いて、警備員がビル内を捜すが、女の姿は全く見つからない。監視カメラをかいくぐり、ビルの外に出ることは不可能だ。女はどこへ消えたのか、何故消えたのか?
この不可能状況の謎解きに、挑むのは、卓抜な推理力・緻密な論理的思考を持った、風水火那子。
最近、コリン・デクスターを読んだり、氷川透に手を出したり、論理のアクロバットに酔う快感を知ってしまった私にとって、この作品は最高でした。しかも、デクスターのモース警部みたく、妄想に走ってない!!(笑)。地に足のついた捜査と推理をしつつ、次から次へと新しい展開を見せてくれます。惹句の、「本格推理のひとつの到達点」という言い回しは全く誇張ではありませんでした。素晴らしい!それにしても、山田正紀氏。「神曲法廷」や「螺旋」のような独特の世界観を見せてくれるかと思えば、このような論理オンリーの純粋推理も描けるとは。ものすごい人だなあ、と改めて感動しました。
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乙一「死にぞこないの青」
飼育係になりたいがために、些細な嘘をついてしまったマサオ。彼は、尊敬する羽田先生から嫌われてしまう。先生はクラスで起こった全ての悪いことをマサオのせいにするようになり、マサオが良いことをしても言いがかりをつけて褒めない。そんなマサオを見て、クラスメートも次第に彼をいじめの対象にするようになり、マサオ自身もそれを甘受するようになる。しかしそんな彼の前に、異様な姿の「死にぞこない」の少年「アオ」が現れる。彼はどうやらマサオにしか見えないらしい。彼は、マサオに訴える。先生を殺せと――
若き天才乙一の、幻冬舎文庫書きおろし作品。薄くて気軽に読める長さだが、描かれている人間模様はただごとでなく重い(笑)。しかし、本気で人間心理のツボがわかってるよ、このヒトは。小学生の心理、先生の心理、そして「一個の集団が上手くいくには、その集団の悪いことを何か一つのモノのせいにしてしまうこと」という、恐ろしい真理。ユダヤ人を迫害してナチの独裁を許したドイツの例を引くまでもなく、身近に転がっている、我々もいつ落ち込んでもおかしくない陥穽。薄ら寒くなるほど、リアルでありがちな嫌な話。だけれど、そういう重い話を、すっきり爽やかないい結末にもっていけるというのも、スゴイと思いました。ヒトのダークサイドを容赦なく描きながらも、切なさや優しさを織り込むことを忘れない。乙一の作風の見本のような本でした。
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乙一「失踪HOLIDAY」
大金持ちの一人娘・14歳のナオは、継母との争いの末、家を飛び出すが、彼女が潜伏先に選んだのは、家の隣にある使用人のクニコの部屋。そこから、家族の様子を盗み見る生活が始まるのだが――(失踪HOLIDAY)
伯父の所有する家で一人暮らしをすることになったぼく。なぜか家には一匹の子猫。そしてどうやら、その飼い主が幽霊になって住み着いているらしい――二人?と一匹の不思議な共同生活が始まる。姿を見せない幽霊・雪村サキとの優しい毎日は、やがて切ない結末へ――「しあわせは子猫のかたち」
二編収録の乙一文庫。
「失踪HOLIDAY」の方は、面白くてきっちり本格してて(最近あちこちで指摘されてるけど、乙一氏の作品はホラーとして扱われながら、実は緻密な本格ミステリとしての性格が色濃いんですよね)、良かったです。でも、それでもでも、「しあわせは子猫のかたち」なのです。私にとってこの本は。無論本格ミステリとしてもかっこいいけれども・・・泣ける。とにかく泣ける。こんなに短いのに、押さえた描写なのに、ずんずん胸に入ってくるよ・・・この短編を読んで泣かない奴とは、友達になれないね、うん(笑・・・ってどっかで聞いたフレーズだなコレ)。とにかく、無条件でヒトにオススメしたくなる一冊です。職場で客から「読みやすくて面白くてオススメの本はない?」と聞かれて、これを薦めたのは何を隠そう私。
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乙一「GOTH リストカット事件」
ぼくとクラスメートの森野は、互いに入手した死体の写真を見せあう奇妙な関係。死にまつわる事物に強く惹かれる、暗黒を愛する者。ある日森野が拾ってきたのは、連続殺人鬼の日記。僕らは、次の土曜日の午後、まだ発見されていない被害者の死体を見物にいくことを決めた……。
あまり語ることがありません、この本については。傑作です。他に何もいうことがない・・・というわけにもいかないので、率直に言いますが、乙一は天才です。それをはっきり再認識できた一冊。あれほどグロテスクな事件を扱いながら、下手に手を出せば不快感しか残らないようなネタなのに、全体的に美しく、切なく仕上げる腕前には、もう脱帽。若いけれど彼は、きっと「死」というものに強く惹かれる人間の根元的欲望、タナトスを誰よりも深く理解しているのだと思う(思い返してみれば、死体が語り手という彼のデビュー作からして、そのことをはっきり表しているといえる)。そしてまた、そのタナトスと上手くつきあう方法をも会得しているのかもしれない。だからこそ、人の死を、暗黒を、邪悪な衝動をこんなにも自然に、しかも爽やかに描ききることができるのだろう。
ところで、私はこの本の「ぼく」と「森野」のコンビが結構気に入っています。この二人で、更にシリーズを書いてくれないかしらん>乙一さん
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麻耶雄嵩「まほろ市の殺人・秋 闇雲A子と憂鬱刑事」
真幌市では、死体の傍に犬のぬいぐるみ、角材など意味不明のものが置かれている奇怪な連続殺人事件が起こっていた。「真幌キラー」と呼称されるその犯人を捕らえるべく、乗り出したのは真幌在住のミステリー作家闇雲A子。彼女と刑事の天城憂は協力して捜査を行うことになるのだが――
架空の町・真幌市を舞台に4人の作家が競作する企画の一冊ですが、この「秋」以外は読んでません(笑)。シリアルキラーものということで、一応ミッシングリンクものということになると思うのですが、この長さとしては無駄なく綺麗にまとまっていて、重いけどぴりっとスパイスの効いた解決で、良かったです。でもまあ、死体横に遺されたメッセージ?の意味は・・・面白いと思いつつ、ちょっと羽目外しすぎじゃないかと思ったり、複雑な心境でした。
それにしても、麻耶さんの文体って、やっぱり私は苦手かも。なんか、中編とは思えないような変な読み応えがありました(笑)、ええ。
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コリン・デクスター「キドリントンから消えた娘」
二年前に失踪して以来、行方知れずの娘バレリー。その捜索を請け負っていた刑事の死後、モース主任警部が捜査を引き継ぐことになる。折しも、バレリーから両親宛に、無事を知らせる手紙が届く。しかしモースは、「バレリーは死んでいる」と直観して――
ロジックに酔いしれることの出来るデクスターのモース警部シリーズの2冊目、読んでみました。1作目「ウッドストック行き最終パス」より、更にしつこく複雑に、モースの仮定と推理とその崩壊と再構築が繰り返されます。そのリズムよい論理の破壊と再生がとても素敵なのですが、あまりに複雑すぎて、一緒に推理するとか、論理の綻びを見つけるとか言うことはなかなか出来そうにありません(笑)。かといって、バレリーの失踪自体がものすごーく難事件かと言われたら、実はそれほどでもないような。実際、辿り着く真相も、ありがちといえばありがち。ですが、そこに至るまでのモース警部の迷走ぶり妄想推理ぶりが楽しいので、そんなことはどうでもよくなってしまうという(笑)。ますますモース警部が好きになる一冊でした。
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平石貴樹「笑ってジグゾー、殺してパズル」
ジグゾーパズル連盟の日本支部長を務める、三興グループのオーナー、興津華子。あちこちにジグゾーパズルが飾られた興津家の屋敷で、彼女は殺された。現場にはジグゾーパズル。それを皮切りに起こる、興津家連続殺人事件。ジグゾーパズルが鍵を握るこの怪事件に挑むのは、名探偵更級ニッキ。
緻密なロジックが売りのお話かと思いきや、結構派手なトリックが駆使されていて、カーやヴァン・ダインっぽかったです。
でも、あんまりニッキ女史は好きになれそうにありません。怪事件やロジックを愛するのはともかく、「とびきりの殺人事件」を待ってるなんていう、殺人事件の捜査を完全に趣味にしてるような姿勢は、いまひとつ好きになれません。いや、本格もの名探偵というのは多かれ少なかれそのような部分は持っていると思うのですが、あまりあからさまに楽しそうにするのはどうかと。でも、ジグゾーの館という設定にはなかなかそそるものがありました。あのトリックが現実にそんなにうまくいくかどうかと言う点はさておいて。
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心の謎を探る会・編「精神分析が面白いほどわかる本」
あーと、読んではみたものの、感想の書きようがないですね(笑)>この手の本 いや、面白かったし分かりやすかったです。精神分析を真面目に勉強したいと思ってしまうほど。いろいろ世間で最近使われている心理学用語の正確な意味や定義を知ることができたのも、有意義でした。
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森博嗣「すべてがFになる」
有名すぎる作品なので、敢えて作品紹介のようなものは書きません。これまで食わず嫌いだった森ミステリイ(実は一作だけ読んでいます。「封印再度」なんですが、これはあまり楽しめなかったので・・・後で人に言うと、「最初にソレを読むのは駄目だろう、と言われた)、記念すべき一作目を読んでみました。面白い!面白いですよ!ロジック、トリック、ストーリーテリング、キャラクター、どれも立ちまくり。これは人気が出るはずだわ、と納得すると同時に、論理展開がとても美しいのでミステリの書き方の勉強にもなります。いや、これは真面目に森ミステリを読んでみないといけませんね・・・というわけで次の「冷たい密室と博士たち」も待機中です。あー面白かった.。
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高田崇史「QED 東照宮の怨」
『八重垣リゾート』社長・八重垣俊介が自宅で殺害された。死体はバラバラにしかけて中断したように見える状態で、被害者は死ぬ前に「かごめ」と言い残したという。そして、彼が所有していたと言われる三十六歌仙絵が盗まれていた。学校薬剤師会の親睦旅行で日光に観光にきていた棚旗奈々は、東照宮でタタルと小松崎に偶然会う。彼らが日光を訪れた理由は、その殺人の鍵を握る、東照宮の三十六歌仙絵を見るためらしい。やがて起こる第二の殺人。タタルの叡知は、日光と東照宮に隠された「呪」を暴き、そして殺人の意外な真相をも照らし出す。
実は、八月によしさんたちと日光に行くための予習として読んだ作品。ってことは、感想を半年以上ためてたのか(笑)。
いや、圧倒的な蘊蓄の嵐は、結構しんどいんですが、頑張って読んでいくと面白いです。日光に張り巡らされた「呪」の正体も、それに関連させた殺人の動機も死体損壊の理由も。だけれども、日光の方はともかく殺人の方は、ちょっと現実味がなさすぎて説得力がなくて、弱いかなあ・・・。それはともかく、タタルくんの記憶力は本気で羨ましいです。一度で良いからこれくらい圧倒的なボリュームの蘊蓄を誰かの前でぶちまけてみたい。無論無理ですが(笑)
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舞城王太郎「熊の場所」
メフィスト賞作家として世に出た舞城氏の、純文学作品三編を収録した短編集。いやあ、純文学とはいいながら、ミステリしてますねえ。サプライズな真相と、張り巡らされた伏線。ドストエフスキーの例をひくまでもなく、優れた文学作品というのは人間の根幹に迫るものであるし、その方法においてはしばしば、人間の欲望や情念の最も激しい形の発露であるといえる犯罪を取り上げることがベストである、ということなのでしょうか(長い)。しかし、文体も特徴的だし、面白い作家さんですねえ>舞城さん。しかし、わたしゃーまだ「煙〜」とか読めてないんですが。そっちを先に読むべきだったんでしょうか。
ちなみに、本文のイラストも舞城さん自身の手になるものだとか。うーん、天は二物を与えているのですね。嫉妬しちゃう。
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氷川透「密室は眠れないパズル」
作家志望の氷川透は、原稿を持ち込んだ東都出版で殺人事件に巻き込まれる。エレベーターの前で刺殺された営業部次長・岡本は、「大橋常務にいきなり刺された」と言い残すが、その常務も死体になって発見される。密室と化した東都出版ビルで繰り広げられる、論理を武器にした推理合戦。
自分にとっては2冊目の、氷川作品です。相変わらず、地味ではありますが鋭利な論理的思考の闘い。うむ、堪能しました。しかしながら、前回読んだ「人魚とミノタウロス」と比べると、デビュー以前の作品(「密室〜」は、氷川氏の鮎川賞最終選考に残った作品なのです)のためか、やはりストーリーテリングや人物造形がぎこちないような。ですが、作中で語られる本格ミステリ談義がとても魅力的なので、そのあたりは若干カバーされている感じなのですが。「最高傑作!」と快哉を挙げるにはいささか頼りない感じではありますが、ロジックの魔術師・氷川氏の原点として読むと、とても興味深い価値ある一冊であります。
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鈴木輝一郎「何がなんでも作家になりたい!」
過去にニフティの作家志望者が集まるフォーラムで相談役をされていた鈴木氏。その鈴木氏が、歯に衣着せずしかも他に例がないほど具体的に、小説家デビューするための方法、そしてデビューした後の生活のことまで伝授。
作家志望者の端くれとして、いろいろな作家入門書を手に取りましたが、はっきり言ってこの本が一番勉強になりました。他の本では奥歯にモノが挟まったような言い方しかしていないことを、かなり厳しく、赤裸々に書かれているので、結構耳が痛かったりもするのですが、だからこそすっと胸に入ってくる。小説を書いて身を立てるということの厳しさがひしひしと伝わってくる。とりあえず、わたしゃー今みたいな生活してちゃー、永遠に小説家にはなれないですわ(泣)。なんとかしないと。
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山田正紀「僧正の積木唄」
かのファイロ・ヴァンスが解決したといわれる、『僧正殺人事件』。だが、事件は終わっていなかった?事件の関係者の一人、アーネッソン教授が無惨に殺されたのを皮切りに、再び幕を開ける連続殺人。カリガリ博士、欠けた数式、マザーグース、梵字、積木唄――様々なキーワードが乱れ飛ぶ怪事件を収拾するため、生け贄に差し出されたのは一人の日系人。それを救うため、若き日の金田一耕助が立ち上がる!
金田一耕助に、ヴァン・ダインの傑作「僧正殺人事件」――あまりに贅沢すぎる、このコラボレーションに山田正紀が挑む!と聞いた瞬間、迷わず買って読むことを決めたこの一冊でしたが、その期待は全く裏切られませんでした。かの「僧正殺人事件」の合理的新解釈、当時のアメリカにおける日系人社会の詳細な描写、豪華なゲスト出演者陣(笑)、そして何より、金田一耕助の大活躍!どれをとっても美味しすぎて、まともに言葉にならないです。というか、この作品こそ山田正紀先生の本格ミステリ作家としての八面六臂さ、多彩さを如実に象徴するもののような気がします。「本格」へのこだわり、黄金期ミステリへの愛着、取材力と構成力、ストーリーテリングの妙、読者への思いやり(「僧正殺人事件」を題に取りながら、ネタバレしていないことなど未読の方への配慮が随所に見られる。そして、「僧正〜」を知らなくても立派に単体のミステリ作品として楽しめるという親切さ)、論理性、幻想味――まさに弱点なし。これで税抜き1857円は安いです、断言。
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西澤保彦「聯愁殺」
見ず知らずの若い男に殺されかけた一礼比梢絵。男は梢絵を襲った後行方をくらまし、事件は公式には迷宮入りとなる。どうやら男は、無差別殺人事件の犯人であり、梢絵が最後の被害者であり、唯一の生存者なのだった。しかし、何故自分が襲われたのか理解できない梢絵は、ミステリ作家・私立探偵・犯罪心理学者が名を連ねる推理集団『恋謎会』に、真相の推理を依頼する。そして会のメンバーたちは、各々に入手した手がかりをもとに、議論と推測を繰り広げるのだが――
と、このように粗筋紹介をすると、『毒入りチョコレート事件』そのもののように見えるこの作品。実際、メンバーが推理を闘わせる様子も、その推理が微妙に独りよがりだったりする点まで(笑)『毒チョコ』そっくり。そこに、『ミッシング・リンク』テーマの風味も加わって、実に趣深い展開なのだが――多くのみなさまと同じく、衝撃のラストにびっくり。どうやらこのラストを『ズルい』と感じる向きもあるようですが、俺的にはこの真相はフェアだと思います。そりゃ、ズルい出し方(奥歯に物が挟まったような言い方ですが……)をしてある手がかりも若干あるので、そういう意味ではアンフェアなのかも知れないですが、そこに連なる間接的な伏線、方向性は、立派に物語内にちりばめてあると言えるので。そういえば、この作品って第3回本格ミステリ大賞の候補作になっていますが、それぐらいのインパクトとクオリティを持っていると信じます。大賞、取ってくれないかな。。。でも、他に並んでいる候補作も相当にスゴイのが並んでいるので、厳しいのかな。
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マイケル・S・リーフほか「最終弁論」
裁判において、事件の全てを総括し、再構成し、裁判官ならびに陪審員を説得する最後のチャンス、最終弁論。本書は、アメリカの裁判史上に残る優れた最終弁論、アメリカの歴史をすら左右したともいえる裁判のそれらを8つセレクトしておさめている。
裁判で法律家がいかに最終弁論に力を入れているかを知ったのは、人気ドラマ「アリー・マイ・ラブ」における法廷シーンを見てでした。それだけに、実際の裁判で行われる最終弁論というものがどんなものか読める、というのは自分としては相当嬉しいことでありまして。
いや、面白いですね、最終弁論における弁護士や検事の手練手管。時に論理的に敵の主張の穴を指摘しつつ、時に思いっきり非論理的になろうとも相手の感情に訴えかける。その話のもっていきかたが実に練られていて、とても興味深いです。が、その論理や感情誘導的言い回しの間からは、やはりその弁論を行う人の、自分が信じるべきもののために最後まで闘わんとする意志が滲み出ていて、それがときに涙を誘います(最も感動したのは、アメリカで最初にプルトニウム被爆で事業者側が責任を問われたカレン・シルクウッド(故人)vsカーマギー社の裁判。理不尽な会社側と、そのために殺されたも同然のカレン、その死を無駄にすまいとする弁護士の凄絶な闘志がびりびりと伝わってきます)。職種は違っても、自分も仕事の上でこういう「意志」を貫いていける人間になりたいなと真剣に思いました。実際は無理だろうけど(笑)
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コリン・デクスター「ウッドストック行き最終バス」
オックスフォードで、ウッドストック行きの最終パスが待ちきれず、ヒッチハイクを試みた二人の若い女性。そのうちの一人は、死体となって発見された。もう一人の娘はどこに消えたのか、何故名乗り出ないのか。単純に見えて難航する捜査。事件の謎に挑むのは、テムズ・バレイ警察のモース主任警部。彼と相棒のルイス巡査部長は、事件を解決に導くことができるのか。
実は、若かりしころに挑戦して、そのときにはどうも魅力を掴み損ねてそのまま手を触れることがなかったのがこのモース警部のシリーズ(ちなみにこの作品は一作目)。この歳になってから改めて読んでみると、あーら不思議、面白いではありませんか(笑)。これは自分が中年に近くなってきて、中年のモース警部にシンパシイを感じるようになったからなのか・・・とそれ以前に。この、様々な仮説を立てては壊し、その繰り返しと積み重ねで真相に迫ってゆくモースの推理のパターンが、昔読んだときにはうざったくて仕方なかったのが、今読むとスリリングでエキサイティングに感じられるのです。やはり歳をとって趣味が変わったということなのかも知れないですが(笑)。そういうパターンの話なので、びっくりするようなトリックのようなものはありません。しかしそれでも真相は十分刺激的。十二分に楽しみました。この作品も、ロジックで頭の体操をするには、とてもいい感じですねー。と、言いつつ頭が悪いので、結局真相を当てたりはできない自分が情けないですが。シリーズが進むほど、この論理のラビリンス状態は深まっていく模様。果たして自分はついていけるんでしょうか?
?
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ジル・マゴーン「騙し絵の檻」
幼なじみのアリソンを殺害した容疑を着せられ、無罪の叫びも虚しく投獄されたビル・ホルト。16年後に仮釈放となった彼は、真犯人を捜し報復するため、故郷に帰る。関係者の間を巡り、動機と機会の両面から真相を探るホルト。果たして彼は復讐を果たすことができるのか?
森英俊氏いわく、戦後の本格ミステリのベスト3に入るほどの傑作、読んでみました。いや、残念ながら私の中での戦後の本格ミステリベスト3には入らなかったですけど(苦笑)、それでも面白かったです。張り巡らされた伏線、サスペンスフルな状況設定、そして切ないドラマ。個人的には、このドラマの部分で一番感情移入してしまいました。無実の罪で投獄され、荒みきったホルトの心と、彼に復讐を思いとどまらせたいジャン。彼女に惹かれているのに、過去のくびきの重さゆえにそれを表すことのできないホルト。傷つけることでしか愛を示せないホルト。本気で切ないです。ちなみにそっちに見入るあまり、本筋の推理の方はいまいち真相を当てられなかった私でした(笑)。ともかく、お得感いっぱいの一冊です。
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氷川透「人魚とミノタウロス」
作家志望の氷川透の友人・生田が勤務する精神病院の面接室で、身元割り出しが困難なほど焼け爛れた死体が発見された。衆人環境の中での、不可解な出火。警察が捜査を開始するも、その直後にまた燃え上がる業火。目まぐるしい事件の展開を前に、氷川透の論理もさえ渡る。果たして、死体は彼の友人・生田なのか。それとも、身元判別不能な死体を利用した、バールストン・ギャンビットなのか。冷徹な論理の末に導き出される真相とは。
鬼のようなロジックがウリと言われる氷川作品。最近、実はロジックなミステリに飢えていて(というか、自分がこれまでロジカルなお話が読むのも書くのも苦手なので、少し論理性を鍛えてみたくなった、というのが正直なところ)、ある人に勧められて読んでみました。うーむ。たしかに、鬼のような怒濤のロジックですねー。ただ、そこまで細かく考えなくても、とか言いたくなる部分はなきにしもあらずなんですが、本気で論理だけを武器に犯罪と向き合うとすれば、様々な余談をこのように徹底的に排除して、これくらい緻密に推理を重ねていかないと、真相にはたどりつけない、ということなんでしょうね。ですが、当初の目的どおり、論理性を鍛える役には立ったし、精神分析の勉強にもなったし(実は、作中に登場する岸田秀「ものぐさ精神分析」、買ってしまいました(笑))、読後かなり充実感のある一冊でした。氷川透シリーズ、前の2冊も読もう。
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ハリイ・ケメルマン「金曜日ラビは寝坊した」
新しく任命された若いラビ(ユダヤ教の律法学者)、デヴィッド・スモールの評判は、芳しくない。タルムードに忠実で理論的・理知的な彼は一方で、理屈っぽくて頼りなく、変わり者だと評価されていたのだ。そんなある日、彼の車の中で若い女性の絞殺死体が発見され、彼自身にも容疑が。そしてそれと同じくして、教会周辺で彼を解雇しようとする動きが。彼は律法の研究で身につけた論理性を武器に、犯人割り出しに乗り出す。
「九マイルは遠すぎる」のケメルマンのも一つの代表作、ラビ・スモールを探偵役に据えたシリーズの第一作。「九マイル〜」で、ケメルマンという人の論理の凄さは知っていたので、今回も全編まるまるロジックで攻めてくるのかと期待を膨らませましたが・・・純粋にミステリしている部分はそれほど多くなく、物語の半分はユダヤ教社会の描写とラビ・スモールの解任動議をめぐる騒動に割かれています。ですが、このミステリ部分と他の部分の絡め方が実に上手いので、事件そのものも謎解きもそれほど派手なものではないのに、実に手に汗握らせてくれるのです。いやー、面白かった。アメリカのユダヤ教社会のことなんかも、とても勉強になったし。それに、このスモール氏の人柄が、なかなかいいのです。学者肌でぼーっとしているけれど、理知的でお人好しで。ご近所にいたら、なんとなく茶飲み友達にしたくなるようなタイプ。このシリーズ、続けて読みたくなりました。しかし、作を追うごとにどうやらミステリ部分が薄くなってしまうらしい、という噂を聞いたので、そこだけ不安なのでありますが(^^;)
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有栖川有栖「マレー鉄道の謎」
友人を訪ねてマレー半島を訪れた有栖川有栖と火村英生。そこで巻き込まれたのは、トレーラーハウスでの「目張り密室」殺人事件。内側から全てのすき間がテープで封印された、完璧な密室の謎を、火村英生は見破ることができるのか?
ああっ、この作品を読める日が来るなんて、夢にも思いませんでした(言い過ぎ)。半分諦めていたもんなー(^^;)。日販速報に出版情報が載ってからはや数年だし。ともかく、買ってもすぐ読む本はあんまりないツンドク人間の私ですが、今回は買ってすぐ読みましたよ。それぐらい飢えていたのです。
で、久々の火村もの長編、感想はといいますと。うん、面白かったですよ、流石。マレーの風情も織り交ぜつつ、飽きさせない展開と、やはり魅力的な火村と有栖川コンビのやりとりも楽しいし。トリックも・・・なんかある方面では前例があるらしいということで評価が低いようですが、自分としてはそれなりに楽しめたし(カーと通じるものがあったし。でも、伏線も含め強引なのは否めないかなー)。ですが、正直な話、犯人は・・・ちょっと魅力的ではなかったですね。文句があるとしたらこれくらいですか。ともかく、数年待った甲斐はそれなりにありました。まずまず満足。
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キャロライン・グレアム「蘭の告発」
イギリスの小さな美しい田舎町、バジャーズ・ドリフト。平和なこの町の森の奥深く、元教師の老婆が蘭を探しに出かけた。そこで「何か」を見た彼女は、慌てて逃げ帰った自宅で、無残な死に見舞われることに……。当初自然死かと思われたこの事件だが、彼女の友人の依頼で捜査を開始したのは、コーストン署のバーナビー警部。やがて浮かび上がる、村人たちの隠された欲望と憎悪、私生活。そして過去の事件。美しい村の景色の中で暴かれる真相とは。
2002年7月現在BS2で放送中のドラマ、「バーナビー警部」の原作。とりわけこの作品は、シリーズ第一作ということで、テレビシリーズの第一話で映像化されました。
うーん、やっぱりイギリスのミステリはいいですな。端正で、綺麗で、個性的で。派手ではないんですが、張り巡らされた伏線と好感度抜群のバーナビー警部による謎解きは、インパクトには欠けるものの、素敵でいい感じです。こういうミステリって、日本では「地味」のひとことで済まされておしまいなんだろうなあ。実際、現在絶版になっていることや邦訳での紹介が止まっていることから考えると、やはり日本では売れていないってことの証明のような気がするし(バーナビー警部も、よく見かけるタイプといえばタイプなんですよねー(^^;))。でも、いい感じ。いい雰囲気。突飛ではなくても、存在感のある舞台設定と人物たち。派手なトリックが幅をきかせる作品もいいけど、たまにはこういう穏やかに楽しめる作品もいいな、と思う今日この頃。ドラマ放送してることだし、復刊とさらなる邦訳がされれば嬉しいんですけど・・・
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黒田研二「嘘つきパズル」
俺――間男(はざま・おとこ)は、妻である元有名女優・麗華との旅行の途中、遭難して絶海の孤島に。そこに時を同じくして打ち上げられていた、数人の男女。跋扈する奇妙な生き物。人面の猿(笑)を誤って死なせてしまったことをきっかけにかけられた「呪い」、そして起こる殺人事件。ドタバタ喜悲劇の果てに明らかになる、驚愕の真相。
いやあ、やっぱり面白いです、黒田研二さんの作品は。でも、やっぱり下品でやらしーのは変わらないのね(笑・・・ってこれも褒めことばですよー一応)。ともかく、奇想天外な設定の中で繰り広げられるタイトルどおりの緻密なパズル、楽しみました。ついでに、イラストが魔夜峰央さんだし。黒田さんの世界観に、あの方の絵がこれほど合うとは思いませんでした。いっそコミック化を希望したいくらい(笑)
あと、この作品には、ニフティサーブの推理小説フォーラムで活動されていたころの黒田さんを知っている者にとっては、実に懐かしく嬉しいキャラクターが登場しているのです。いやー、こんなところでぜにーちゃんの活躍を見られるとは思っていなかったので、びっくり。当時よりなにげに名探偵になってるし(笑)美味しいキャラになってましたねー。
ともあれ、二重にも三重にも楽しんだ一冊でした。
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林泰広「見えない精霊」
インドの森の奥深く。カメラマンはシャーマンの老婆から不可思議な話を聞く。その声と言葉は、彼が尊敬する「不可能を可能にする」天才カメラマン、「ウィザード」のものだった。彼は、姿を撮影されることを恐れるシャーマンをカメラに収めたことにより死に追いやり、その報復として殺されたのだという。村からの逃走をはかるウィザードの前に現れる、シャーマンの少女。飛行船の中で起こる不可能殺人。しかし、ウィザードの怜悧な知性は、論理を武器に少女を追いつめようとする。だが、それを突き破る不可能犯罪と、それが示す力――「見えない精霊」。果たして、「精霊」の正体は、そして不可能犯罪のトリックは?
次々起こる不可能殺人とどんどん紡がれていくロジック。面白いですけど、あんな構造の飛行船は使い辛くて仕方ないと思うので、リアリティの点では大きく興ざめでしょうか。作者さんのやりたかったことはよくわかるのですが・・・インドの森の奥のシャーマンの村、という魅力的な設定が、単に不可能状況を作り出すためだけの小道具で、あまり掘り下げられていないのもちょっと。あの論理の見事さは、素晴らしかったと思うんですが・・・それだけに、余計に勿体無いような。
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深町眞理子「翻訳者の仕事部屋」
長年、多くのミステリ・SF・ホラーなど多くのジャンルの翻訳を手がけてきた大御所・深町眞理子さんのエッセイ集。
いやあ、深町さんが翻訳の仕事を行うにあたってのこだわりが、とてもよく伝わってきます。特に、繰り返しおっしゃられる「訳者は役者」という例えは、小説の翻訳という仕事の本質をよく表していると同時に、深町氏自身のプロ意識が滲み出ていますよね。でもって、その幅広い読書量。読む方としては、やはり翻訳を手がけられる方もこういう風に小説を愛して止まない人だというのは、心強いというか嬉しいですね。だからこそ、深町氏が翻訳を手がけた作品は、多くのものが長く日本でも愛されているのでしょう。と、いいつつ、自分はそれほど深町さんの翻訳作品を多く読んでいるわけではないですが(苦笑)。これからも末永く、ご活躍していただきたいものです。
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ノーム・チョムスキー「9.11 アメリカに報復する資格はない!」
アメリカの知性といわれる言語学者チョムスキーが、同時多発テロとアフガンへの報復攻撃に際し、各方面からの電子メールによるインタビューへの回答をまとめたもの。
出てくる出てくる、アメリカの嘘。人の命を奪われたことを報復の理由にしているアメリカが、いかに人の命を(自国民の命も含めて!!)粗末に扱ってきたかの具体例が、掃いて捨てるほどいっぱいあることを教えてくれます。まあ、メールによる回答をまとめたものなので、多少内容がかぶっていたりわかりづらかったりしますが、自分的には、これらの例を具体的に知ることができたのがとても勉強になりました。本当に、一緒に声を大にして叫びたくなりました。「アメリカに報復する資格はない!!」と。
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西尾維新「クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い」
財閥令嬢・赤神イリアが所有する絶海の孤島。そこには、様々な分野での天才的才能を有する女性たちが招かれていた。工学の天才・青色サヴァンこと玖渚友とその付添人・戯言遣いこといーちゃんもその中の一員だった。折しも発生する首斬り密室殺人。天才達の集まる島で天才が屠られる斬り殺人事件の連鎖に、玖渚といーちゃんが挑む。
メフィスト賞受賞作。作者さんってすごく若いんですよねたしか。うらやましい。それはともかく、その突飛な舞台・キャラクター設定と、ついでに変わったタイトルと清涼院流水の賛辞(笑)などなどから推察して、裏技的インパクトが売りの変格ミステリ?かと思いきや、意外と正攻法に本格していました。でもって、ストーリーテリングの技もなかなかにお見事。某所で言われていたように、天才のみなさまがあんまり作中で言われているほど天才に見えなかったりするところ以外は、素直に楽しめるしっかりしたつくりの佳作だったと思います。でも、玖渚のキャラはあんまり好きになれないなあ。無邪気なのはいいけど頭は洗おうよ(爆死)。
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辺見庸「単独発言」
アメリカの同時多発テロ発生以後、報復一色のアメリカに追従しようとする日本のマスメディア(全部がそうだったとは言わないけど)、ジャーナリズムの中で、アメリカの「正義」の嘘と「報復」することの非正当性を地に足の付いた論法で主張しつつけてきた、辺見庸氏の、ここ数年の論文や講演を集めた本。といっても出版された時期が時期だけに、ページが一番多く割かれているのはアフガン報復戦争への批判なんですが。いや、本当に正論です>辺見氏の意見 アメリカの、あるいはブッシュの叫ぶ「正義」が、結局はアメリカにとって都合のいいこと・従うこと=正義、それ以外のもの=悪という、ベトナム戦争を例に出すまでもなく建国以来面々と続いてきた「嘘」であること、それを具体的根拠を示しつつ教えてくれます。「正義」を枕詞につけようとつけまいと、暴力は暴力。そして極めて公平な視点においてアメリカによるアフガンへの攻撃は「悪」そして暴力で、それこそがアメリカが打倒を声高に叫ぶ「テロ」に他ならない。「ケイゾク」の真山さんではないけど、「人殺しは、人殺しだ」(笑)なんであります。それと関連して、というわけではないですけど、一番後ろに収録され
ている辺見氏の死刑制度への批判も、とても印象的。いや、ただ「人を憎んで罪を憎まず」なんつーよくある批判なら、自分としても特別なにも感じることはなかったと思うのですが、「クライム」と「シン」(どっちも英語で「罪」という意味ですが、ニュアンスが若干違うんですよね)を例にあげて、死刑という刑罰そのものがたとえ肯定されるにしても、執行する側が「シン」を背負うべし、という意見は、あまり現実的ではないかもしれないけど人の存在の根源に迫るかのような切なさ、苦しさがありました。
それにしても・・・こういう反逆精神、リスクを負っても正論を貫くという姿勢のジャーナリストが、日本でが最近減っているとのこと。やっぱり、マスコミ・ジャーナリズムが社会においてどういう意味を持っているのか、情報をつかさどる立場にいるということがどういうコトなのか、忘れないで欲しいよなあ。
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菊池良生「犬死 歴史から消えた8人の生贄」
何百もの小国にも分裂し、戦端や権力争いに明け暮れていた中世ドイツ。その歴史において、時には大義を、時には野望を、時には純粋な愛国心・義侠心を持ちながら、時にはその純粋さゆえに、無垢なる愚かさのゆえに、あるいは中途半端な才覚のゆえに君主や民衆から利用されるだけ利用され、無残な死を遂げた人々がいる。こういった歴史の裏で無意味な最期を迎えた人々、これを犬死にといわずして何と言う。ドイツ史に通暁する著者が、そうした8人の「犬死(いぬじに)」を検証する。
いやー、身につまされるというか何と言うか。人ごとではないというか現実ってこんなもんねっていうか(笑)。こういう利用の仕方され方って、我々がフツーに仕事しててもありますよね(笑)。でもって、この本に出てくる8人みたく、素直すぎて酷い目にあうヒトもけっこういるような。だけれども、血生臭い中世ドイツのこと、こういう愚直さが速攻で悲惨な死や酷い拷問につながったりするわけで。そう思うと、愚行ばっかり繰り返して全然進歩してないように思える人間って生き物も、何百年かたってちったあ野蛮さもマシになったのかな、とは思います。まあ・・・やっぱり教訓として、人間何か一つのモノをあんまり信じすぎると、馬鹿になっちまう、だから結局どんな美しい理想も輝かしいカリスマも、眉唾つけて見て丁度、ってとこでしょうか。
ちなみに、8人のうちで一番イタく感じたのは、長きにわたって国を忠臣として支えてきたにも係わらず、若く愚かな暴君を諫めようとしたばっかりに無残な拷問と処刑にあわされた、ブロイニングでしょうか。馬鹿でも無力でもなかったのにも係わらず、まともな分別を持っていたが故に酷い目に合わされるというこの不条理さ。でも、宮仕えをしていると、さっきの話とかぶりますがこういう場面に出くわすことって結構多くありまして・・・(苦笑)。組織というものの非人間性は、時代が変われど普遍的なもののようで。ちょっとブルーになってしまいますね。
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筒井康隆「家族八景」
テレパシー能力を持つ少女・火田七瀬は、その能力を世間から隠すため、あちこちの家庭を住み込みの家政婦として点々として生活していた。その彼女が人の心を読むことにより暴いた、8つの家族の、虚偽に満ちた人間模様。
吐き気がするほどえげつない話です、コレ。でもこのえげつなさこそが筒井さんの天才たる所以。って実は筒井さんの作品をちゃんと読むのはコレが初めてでしたね。まあ、かなり古い時代に書かれた作品なので、描かれている家庭の姿もそこにいる人々の家庭や性差に関する考え方も、相当に前時代的なのですが、それでもやっぱり吐き気がするほど生々しく感じてしまうのは、時代が変われど人の欲望のカタチなんてものは根本的に変わっていない、ということの証拠でしょうか。
それにしても・・・8つのエピソードに登場する各家庭の人々も相当にねじれた性格をしていらっしゃいますが、それを見ている七瀬ちゃんもかなーりいい性格をしてらっしゃるような(笑)。だって、完全に人の心を玩具のように弄んでらっしゃるとおぼしき場面が何度もあるんですもの。っていうか、別に虚偽に満ちていようと馬鹿であろうと平和でやってるのに、あんたがそんなちょっか出さなくてもいいやん、ていうような事をして、その結果家庭がぼろぼろになったりすることもあるし。まあ、自分の能力が人に知られるのを防ぐためとか、自分自身の安全を守るためにそういう手段に訴えている場合もあるので、そういうときはしかたないと思うのですが、七瀬ちゃんの好奇心のためにかき回されたりしている家庭もあって、かなーり気の毒です。でも、その人たちもシンパシーを感じるほどには良い人たちではないので、彼女が何かをしなくても、いずれ同じような事になったのかもしれないですが。
かなり胃に持たれる話ではあったけど、ある意味勉強になったし、「心を読む」描写の生々しさなんかは思わず鳩尾にぐっときたし、素晴らしい作品であることは間違いありません。ってこんなこと私ごときは言わずともみなさん分かってらっしゃることでしょうが。
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戸梶圭太「牛乳アンタッチャブル」
某牛乳会社の不祥事を彷彿とさせる、雲印乳業の低脂肪牛乳集団食中毒事件。デタラメな会社の衛生管理、保身や利己的感情ばかりに走り、まともな対策を考えようとしない経営陣。役員で唯一会社の未来を憂える柴田は、人事部の宮部富雄を中心に、責任の所在を追及し会社の腐った部分を容赦なく切り飛ばすための「クビキリ・チーム」を結成させた。かくして、無責任な経営陣・幹部連中を相手に、抱腹絶叫のクビキリ・バトルが始まった!!
いやあ、問答無用で面白い、です!!>この作品 独特のストーリーテリングで評判の戸梶作品、何ゆえこの作品を最初に手に取ったかは自分でもわからないのですが、もう、とにかく逸脱しまくってる各キャラクターの楽しいこと楽しいこと。暴走する笑いとドラマのジェットコースター、ってとこですか。そのタイトルのイメージとモチーフになった事件から、結構リアルでハードな(いや、戸梶さんの評判から考えるとクソ真面目な企業小説にはなってはいないだろう、とは思っていたけど)サラリーマン戦争を予想していたんですが、それは良い意味で全く裏切られました。馬鹿。もうとにかく、馬鹿なのです。このひとことに尽きる。どこまでも逸脱して飛翔していく馬鹿さ加減には、もう何も言わず固唾を飲んで見守っているしかない。だけど、あまりにも感情むき出しであまりリアルでない登場人物たちが妙に身近に感じられるのは、程度の差こそあれ彼らが吐き出してゆく喜怒哀楽のオーラは、やっぱり我々の日ごろ心の奥底に感じている様々なスト
レスやリビドーや感動を、飾らず正直に代弁してくれてるからなのかも知れません。とまあ、こんな小難しい理屈はどっかにうっちゃっておいて、とにかく笑うべし、楽しむべし!というカンジの作品でした。これで税抜き1500円は安い。
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戸梶圭太「溺れる魚」
女装癖のある万引き刑事・秋吉と、踏み込んだ現場で現金を横領した白洲刑事。二人の不良警官は、その罪を不問に付す条件として、観察から不審な行動の公安刑事・石巻の尾行・内偵調査を命じられる。石巻は、ある企業から脅迫事件の犯人捜しを依頼されていた。その脅迫内容は、幹部社員に大衆の面前で死ぬほど恥ずかしい姿や行動を次々に要求する奇妙なもの。果たして犯人の真意は?一連の事件に一癖も二癖もある連中が絡みまたは巻き込まれ、事態は思わぬ方向へ。
上記の「牛乳アンタッチャブル」で戸梶作品の面白さに味をしめて、二番目に手に取ったのがコレです。映画化もされましたが、実にスピード感があります。でも、スピードが速すぎて終盤のクライマックスでは眩暈がしそうになったりもしましたが(笑)。アクのあるキャラ設定とリズムのいい文体(「牛乳アンタッチャブル」に比べると、結構真面目)に引っ張られて、何も考える暇もないウチにあっという間に読み終わっていました。ちなみに一番のお気に入りは石巻さん。オヤジなお歳のはずなのに全然オヤジらしくないクールさや、公権力には絶対服従なはずの公安刑事でありながら、しっかり自分の個を貫き通しているところに好感が持てました。勿論秋吉や白洲も好きですけど。ちなみにコイツとセットで映画版の方も賞味したのですが、その感想は映像部屋でそのうちに。
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高田崇史「QED 式の密室」
密室で死体となって発見された「陰陽師の末裔」を称する男、弓削清隆。その孫である和哉は、その事件が他殺でありしかも「式神」の仕業であると主張する。偶然彼と知り合うことになった桑原崇――通称タタルは、その密室殺人の謎を解き、しかもその真相を通して伝説の陰陽師・安倍晴明の真の姿を暴き出し、数々の伝承が残る「式神」の正体をも喝破する。
QEDシリーズを読むのは、これが初めて。よりによって一番薄いヤツからとは(笑)我ながら根性がないヤツです。密室殺人の謎は、実はとある講談社ノベルズ出身の大作家さんの某トリックと類似しているのでそれほど意外性はなかったですが、そこにいきなり式神伝説の真相を直結しているトコロがスゴイ。この作品が実はシリーズ最高傑作である、といわれるのもよく分かります(他の読んでない癖に>自分)。この、現在の事件と歴史的真相の歯車が綺麗に噛み合わさってより大きな歯車となって動き出してゆく様は、まさに歴史ミステリの醍醐味、というカンジ。その昔自分は、某量産作家さんのタイトルに古典文学作品の名前を冠したシリーズなんかを読んだことがあって、それなんかだと歴史の謎は単なる味付けとしてしか機能していなかったんでがっかりしたんですけど(タイトルで「面白そうだ」と思った人に対してはある意味詐欺だよな)、この作品の場合は全く期待を裏切られませんでした。というわけで、他のQEDシリーズもちゃんと読んでみようと思います。
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田中啓文「鬼の探偵小説」
東京都内でも最も平和で事件の起こらない管轄区域を持つ、忌戸部署。しかし、ロス市警帰りの捜査一課警部・ベニー芳垣が研修にやって来るのと時を同じくして、常軌を逸した奇怪な事件が起こり始める。左右の目玉を入れ替えられて殺されたブローカー、蜘蛛屋敷で蜘蛛に見立てられて殺された令嬢――これらの異様な事件を捜査するのは、鬼丸三郎太刑事。彼の存在に何かを感じているらしいベニー警部も、実は陰陽道で怪事件とそれらの陰で暗躍する者達の存在を感知してやってきたのだった。「鬼」と呼ばれた男と、陰陽師。二人が導き出す、妖気漂う事件の真相は?
最近いろんなトコロでご活躍中の田中啓文さん。自分は読むのは初めてなんですが――大好きです、こういうセンス!この本には4つの中短編が収録されているんですが、どれも二重三重に楽しめる多面的な味わいを持った濃い内容の作品ばかり。ホラー、サイコもの、オカルト・アクション、そして無論の本格ミステリ(あと、考えようによっては「必殺」シリーズの要素も入っているともいえなくもない?)と、さまざまなジャンルの美味しいとこをごった煮にしているカンジ。この「ごった煮」の部分で、きっと合う人と合わない人が出てくるのかもしれないですが、自分自身はこういう濃い口こってり味が大好きなので、まさに最後までシンクロしまくり状態でした。ただ、トリックはちょっと自分の好みで言うと強引すぎたり薄味だったりしましたが、そんなことはこの果汁たっぷりのフルーツ状態の作品の中では些細なこと。どうやらこの「鬼丸刑事シリーズ」、これからもシリーズが続いていくらしいので、次が出たら必ず買うと思います。いっそ長編なんかも希望!!
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佐野洋「折々の犯罪」
短編ミステリの名手・佐野洋氏が、大岡信の名著「折々のうた」にちなんで執筆した名作集。
本格ミステリとはいえ、自分はふだんあまり読まない種類の作家さんです>佐野さん チャレンジしたい気持ちは前々からあったんですけど(同じような作家さんに、森村誠一さんとか松本清張さんとかがいらっしゃいます)、今回初挑戦。うん、いいカンジです。テーマとトリックとよく馴染んでて、そこに人間心理の綾とかも上手く折り込まれていて。登場人物たちの造形もリアルで身近、荒唐無稽なところは全くないので、「大人の本格推理」というイメージでしょうか。
でもやっぱり、自分としてはこういう作品よりは、大法螺吹きの名探偵とかが出てくる時代錯誤な話の方が好きなんだなあ、というのを再確認してしまいました。そのあたりにいそうな登場人物とかを見ていると、なんとなく退屈になってきたりして。でも、このテーマとプロットの絶妙な絡めかたや、伏線の隠し方などは、やはり流石は巨匠です。絶妙。自分なんかじゃ絶対真似できません。素人とはいえミステリ書きの自分としては、本当に勉強になる一冊でした。
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富増章成「空想哲学講義」
「マクロス」「タイムボカン」などのアニメや、「電車でGO!」などのゲームを哲学の思想に当てはめ、哲学をより身近に、簡単に理解できるよう講義した本。
んー、なんでこんなもの読みたくなったのか、自分でも良くわかんないんですが(笑)。低学歴、低教養のわたしにとって、「哲学」という学問は長年、サワリや固有名詞は知ってても実際の中身は全くわかっていないという、ブラックボックス的(?)な存在でした。でも、理解できないままほっとくのはなんか自分で自分が馬鹿であるのを認めるみたいで悔しいので(笑)、それに笠井潔さんの矢吹駆シリーズでは常に哲学的テーマがふんだんに盛り込まれていて、駆の思想バトルがストーリーの核になっていたりもするので、ここでわかりやすい本で勉強できればそれに越したことはないと思いまして。
ですが・・・結果は・・・(苦笑)結局、自分が馬鹿なのを再確認しただけのようなカンジになってしまいました。もう、ぐるぐるぐるぐると。現実と自己、存在・・・認識・・・読めば読むほど自分を見失いそうになるという悲惨な状況。いや、本自体は相当わかりやすく書いて下さっている感触があるんですが(文章読みやすいし)、中年に片足を突っ込んで脳細胞が死滅しまくっているショーシャンクめには、どんどん新たに出てくる単語からして記憶できないもんだから、展開される理論にまったくついていけない(笑)・・・・はあ(溜息)
でも、このままではやっぱり悔しいので、更に分かりやすい本とか探して勉強しちゃうかもです(見えっ張り)。
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アガサ・クリスティー「ABC殺人事件」
エルキュール・ポアロのもとに届けられた、ABCと名乗る人物からの大胆不敵な挑戦状。やがて起こる、名前の頭文字がA、B、Cとなる人物たちがアルファベット順に殺害される連続殺人。悪魔の所業をポアロは止めることが出来るのか。
あまりにも有名な古典名作。名作過ぎるがゆえに後回しにしていたのですが、今回読んでみました。
やっぱり、ポアロはいいですねー。でもって、頭の中でデビッド・スーシェのポアロを描きながら読むとなおグッド。彼の演じるポアロが、いかに原作のイメージにぴったりであるかを再認識しました(何度考えても、ピーター・ユスチノフは違うと思う・・・)。それはともかく。古典だけに、この手の作品のトリックとしては最も基本なパターンで解決してしまうので、意外な真相の驚きというのはなかったです。でもそれは、読む側の問題なので、作品自体がどうこうというのは間違っているでしょう。それにトリックをうっちゃっても、生き生きした人物描写はやっぱり面白いし。しかしポアロものって、必ず偉そうな警察官が一人は出てくるような気がするのは気のせいでしょうか>
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西澤保彦「両性具有迷宮」
お笑い百合小説家・森奈津子さん。彼女はある日、熊の縫いぐるみ型の宇宙人のミスにより、疑似男性器を生やされてしまう。その直後、彼女の周囲で起こり始めた連続殺人。その被害者は、なんと奈津子さんと同じ災難に見舞われている女性ばかり。時にインモラルに、時にロジカルに事件の謎に迫る奈津子さんだが――
「なつこ、孤島に囚われ」に続く、森奈津子シリーズ(笑)第2作。今度は長編。前回にも増して下品でやらしいですが(笑)、会話や奈津子さんの妄想全般にリズムがとてもよろしくて、サクサクと読み進んでしまいます。ストーリー展開のノリもグッド。しかし、西澤さんの文体って、ある意味この奈津子さんというキャラを描くのに最適なんだな、と変に悟ってしまいました。たとえば神麻嗣子シリーズの保坂さんの一人称とか、正直に言うとよく妄想に走ってわき道にそれたりしてるとこが、正直に言うとちょっと自分は苦手なのです。が、この迷走(笑)パターンが、主役が奈津子さんになるとぴたっと綺麗におさまる(笑)。ここはこのまま、奈津子シリーズを3作、4作と書きついでいただき、この独特のオーラを極めていただきたいと思います(笑)。
でも、自分としては、奈津子さんの逸脱ぶりがすごくイキイキしてる反面、西澤さんの持ち味であるめくるめくロジックという点でどうも食い足りなかったのが残念であります。まあ、連続猟奇?殺人がネタだと、徹頭徹尾論理で攻める、というわけにいかないからなのかもしれないですが。
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松尾由美「バルーン・タウンの殺人」
出産が人工子宮によって行われ、女性がそれにともなう苦痛から解放された近未来。敢て昔ながらの妊娠・出産を選んだ女性たちが集まる町があった。東京都第七特別区、通称「バルーン・タウン」である。東京都警の刑事・江田茉莉奈は、この特別区で起こった殺人事件を「女性である」という理由だけで捜査する羽目に。しかし、一般人の彼女にとっては、ここはまるで異世界同然。彼女は偶然妊娠中でこの町に滞在している旧友・暮林美央の力を借りることに。SFチックな設定の「バルーン・タウン」で起こる4つの事件。
以前からトンデモミステリの傑作であるという評判を聞いていたこのシリーズ、一冊目がこの本。楽しみに手に取りました。いや、面白いです。本格な体裁を取りつつ、世界設定がSFなのでどうしてもフェアプレイになってない部分はありますが、その分「バルーン・タウン」という舞台と密接に結びついていたりストーリーと堅固に直結していたりするので、完成度は高し。
でも、男性が読むと、結構妊婦さんの生態(?)が赤裸々で生々しいので、ちょっと胃にもたれるかもしれません。まあ、妊娠や出産というものが本当はどういうものかわかっていなかったり変な幻想を抱いていたりする無知な男ども(自分含む)には、勉強になっていいのかもしれません。
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柴田よしき「Vヴィレッジの殺人」
山梨県自治郡V村は、非公式に政府が認可した「吸血鬼たちの町」だった。そこには、よく意味がわかりもせず永遠の命を欲しがる人間や自殺志願者の無断侵入が後を絶たない。V村出身の私立探偵メグは、村に向かうと置き手紙を残して消えた美青年を捜索すべく、里帰りする。しかしそこで、人間が絶対入ることのできないはずの墓所で、吸血鬼が触れることが出来ないはずの十字架を用いた殺人に遭遇する。この不可能犯罪の謎を、メグは解き明かすことができるのか?
うん、とても面白かったです。特にV村に関する細かい設定は、至れり尽くせりで、その説明を読んでいるだけでも楽しい。こういう奇抜で独創的な世界観のもとで起こる、妖気漂う不可能犯罪。素敵過ぎです。でも、ちょっとだけ不服を漏らすと、解決部分のメグの推理がどうも唐突過ぎて、そこに至るまでのV村の描写が緻密で読みごたえがあった分、軽い感じがしてしまったことでしょうか。でも、トータルとして面白いし、柴田さん特有の女性心理の綾は種族が吸血鬼になっても(笑)巧みに描かれているので、自分としては満腹でした。はい。
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鯨統一郎「CANDY」
記憶を失い、見知らぬ不思議な世界に迷い込んだ「あなた」は、目の前に現れた謎の女から、自分がその世界を破滅に導く反(アンチ)ブッダであり、破局を防ぐにはキャンディを三つ集めなければならないと告げられる。そこでキャンディを求めて冒険が始まるのだが、出てくる敵も世界そのものも、あまりに巫山戯きっていて・・・
現在最も旬な新手ミステリ作家の一人、鯨統一郎さんのSFファンタジー。祥伝社の400円文庫です。気軽に読める長さの書き下ろしさんですねー。つーか。これってSFなんですか?(笑)コントじゃなくって??(笑)いや、悪い意味ではなくって。あまりに可笑しすぎて。なんか、存分に作者さん自身が楽しんで書いてらっしゃる感じがとても良いです。ある意味癒し系か(笑)。それにしたって逸脱し過ぎてるような気もしますが、何も考えずに楽しめて笑えるので良いのです。しかし、ここまで自由に書かせた編集者さんも偉いなあという感じもしますが。
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ルース・レンデル「女を脅した男」(英米短編ミステリー名人選集1)
日常に潜む人間の心あやうさを巧みに描き切る心理サスペンスの名手・レンデルの傑作短編7編に、人気本格推理・ウェクスフォード警部のシリーズ短編4編を集めた、日本で独自に編まれた傑作選集。
レンデルは以前からじっくり読んでみたいと思いつつ(「我が目の悪魔」くらいしか読めてない)なかなかその機会がなかった作家さんなんですが、いやー、いいですね、彼女の短編。ノンシリーズの心理もの短編は一編一編がとても短くて、ほとんどショートショートに近かったりするのもあるのですが、ヘヴィさは下手な長編小説をはるかにしのぎます(^^;)。というか性格描写があまりに鋭くて痛すぎです。ちなみに一番印象に残ったのは、愛情が嫌悪感に変わる瞬間が鮮やかだけどあまりに自然でそれゆえにショッキングな「女ともだち」と、主人公?夫婦の馬鹿さとえげつなさが最高に悲惨な「愛の神」でしょうか。どれも派手などんでん返しとかはないかわりに、じんわりと脳髄に染み込んできて痛い余韻を残します。
ちなみに今回初めて読んだウェクスフォードものですが、実はこのシリーズ、自分は見くびっていたのです(笑)以前レンデル自身が、このシリーズは飽くまで読者サービスで作者個人はそれほど好いていないという噂を聞いたことがあったので。でも、上品で芳醇な英国本格ミステリ特有の味わいに、ノンシリーズでも顕著な性格描写の鋭さもミックスされているところが気に入ってしまいました。今度は長編を読んでみよう。
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岬兄悟・大原まりこ編「SFバカ本 人類復活篇」
岬兄悟氏と大原まりこ氏という日本SF界の大御所二人が手がける、「バカ」なSFの集大成アンソロジー、3冊目です。バカミスも大好きだし、「バカ」という言葉のつく作品群が大好き(ってほど多く読めてるわけではないんで、「好き」というよりは「憧れ」になるのかな)な自分ですので、ものすごく期待して手に取りました。が、期待したほどは「バカ」ではなかったかな。それは無論作品として面白くないということではないので、十分すぎるほど楽しめたのですが。むしろ、真面目なSFとして読んでしまったような作品もあったりしました。
で、一番のお気に入りはどれかというと、「ぶたぶた」の矢崎存美さんの「偏頭痛の恋」。切ないです、すごく。苦痛も「嫌い」という感情もまぎれもなく自分の一部、という感覚、よくわかります。ってあんまり書くとネタバレっぽいですけど。あと、期待通りにバカで大笑いさせていただいたのは、草上仁氏の「皮まで愛して」。落語みたいな身近でウマいオチが素敵です。
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中島らも「とらちゃん的日常」
ネコは神聖なる生き物だ!と公言してはばからない中島らもさんのもとにある日やってきた、「とらちゃん」。彼と中島らもさんの、どうということはないけど可愛くて微笑ましい日常を綴ったエッセイ・・・のはずなのだけれど、結局とらちゃん、らも事務所の大家さんであるところのわかぎえふさんのお母さんにすっかり奪われてしまっています(笑)。ので、表紙や口絵の猫写真につられて手に取ってしまった私のような人間が猫萌え(笑)を楽しめるのは前半のみかも(終盤、「ふくちゃん」の出現でまたちょっと猫ムードが盛り返すけど)。それでも、らもファンなら彼のお仕事の様子が淡々としかし丁寧に綴られているので十分楽しめると思います。自分の場合は、まあ、らもさんの仕事ぶりも興味深く読んだけど、全てはやはりとらちゃんの可愛さに収束されるのであります。本文読んでた時間より、下手するととらちゃんの写真を眺めてた時間の方が長いし(笑)>自分 図書館で借りた本なのに、「ああっとらちゃん!!!」と悶えながら何度も頬擦りしたことは秘密だ。
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ジョン・フラー「巡礼たちが消えていく」
中世ウェールズの荒れ果てた島の修道院が所有する、奇跡の井戸。そこを巡礼に訪れた人々が行方をくらます不可解な事件。その真相を探るべく派遣されたヴェーンは、禁断の研究に手を染める修道院長や奇矯な島の人々を通して、聖なる井戸の水にまつわる秘密に触れることになる・・・。
「薔薇の名前」となんか設定が似ているお話ですが、中身は全く違います。ストーリー紹介を読むとミステリーっぽいけど実体はむしろファンタジーだし。ですが、謎の深さの割りには、どうも本の薄さと同じく薄っぺらいお話だなあ、と感じてしまったのは私だけでしょうか。終盤の展開なんて、なかなかに驚かされるけれども、なんだか色気がないし。どっちかというと純文学寄りな作品のようなんで、これは読んでいる私の方が薄っぺらいのでこう感じてしまうのかも。少なくとも万民向けのお話ではないし、エンターティメントとしては全く楽しめないストーリーであるのは確かです、はい。読む前、本の裏表紙に載ってるストーリー紹介だけ読むとめっちゃドキドキするんですけどねえ(苦笑)。
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あんまり、「甘口」になってないかも?(^_^;) 戻る