「麦酒の家の冒険」(西澤保彦)


・作品紹介
 タックこと匠千暁、ボアン先輩こと辺見祐輔、タカチこと高瀬千帆、ウサコこと羽迫由起子の仲良し四人組は、R高原に遊びに行った帰りに、無人の山荘に迷い込む。そこには、家具も内装もないのに、なぜか一台のベッドと、クローゼットに隠された冷蔵庫の中にある96本のビール、そしてジョッキ13個だった。一体、誰が何の目的で、こんなところにこんなものを?飲めば飲むほど推理が冴える四人の探偵たちが、ビール片手に推論を積み重ねていく。この奇妙な山荘の謎を、果たしてとくことができるのか?
 麦酒の家というとびきり奇妙な謎を、ひたすらタックたちが推理していく、まさに純粋の安楽椅子探偵モノ。長編という安楽椅子モノには不利な条件でありながら、時にシリアス、時にユニーク、時に荒唐無稽な推理を次から次へと繰り広げ、全く退屈を感じさせないのは、まさに名人芸である。西澤氏はこの本の後書きにも書かれているが、国産安楽椅子探偵作品の代表作「退職刑事」に並々ならぬ思い入れがある様子。どんな作品でも緻密なロジックを忘れない西澤氏にとって、安楽椅子探偵は最も得意なジャンルなのかもしれない。
 ちなみにこの作品を読んだ二階堂黎人氏が、「こんな美味しいネタをこんなオチで終わらせるとはけしからん!」と息巻いて書いたのが、「名探偵 水乃紗杜瑠の大冒険」所収の「ビールの家の冒険」である。両者のどちらが優れているかは、読者の判断にゆだねるしかないが、西澤氏の方は長編、二階堂氏は短編と多少の条件の違いがあるので、あまり比較することそのもの野暮かもしれない。

・作者について
 
「完全無欠の名探偵」参照。

・作品データ
 1996年11月、講談社ノベルズより発売。
 1999年には舞台化もされ、話題となる。


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