「ロシア館の謎」(二階堂黎人)
・作品紹介
昭和四十四年十月五日――数々の難事件を解決に導いた美しき名探偵・二階堂蘭子とその義兄・黎人は、<紫煙>という喫茶店で行われる<殺人芸術会>の月例会に参加していた。<殺人芸術会>とは、東京三多摩地区の推理小説愛好家たちの親睦と懇談を目的とした同好会で、その月例会ではいつも、古今東西のミステリーについて論じたりする他、会員やその他の相談者・ゲストから持ち寄られた奇怪な事件の謎の話を聞き、みなで推理を闘わせたりするのであった。
この日のテーマは「自分たちが出会った不思議な出来事」であったが、最後に順番が回ってきたアルフレッド・カール・シュペア老人が、未曽有の体験を披露する。ドイツ軍人であったシュペア老人がロシアの雪原を訪れた際に立ち寄った、「吹雪の館」――その館が、忽然と、跡形もなく消えうせたというのだ。二階堂蘭子が、この巨大な家屋消失トリックの謎を解き明かす。
二階堂黎人の代表的名探偵・二階堂蘭子シリーズの短編。
シュペア老人の語る不思議な物語も雰囲気満点だが、壮大なスケールのトリックも、シンプルながらも重厚で、両者が見事に絡まって、短編ながら濃密な味わいの佳作となっている。
「黒後家蜘蛛の会」を思わせる<紫煙>の<殺人芸術会>月例会であるが、作者・二階堂氏もお気に入りなのか他の短編にも登場している(短編集「バラ迷宮」収録の「サーカスの怪人」「変装の家」など。また、長編のなかのワンシーンで、この会合が使われている場面もある)。とにかく頭脳明晰な天才型探偵の二階堂蘭子の推理力が、安楽椅子探偵でも遺憾なく発揮されているのが嬉しい。
・作者について
二階堂黎人(にかいどう・れいと)氏の経歴については、「名探偵 水乃紗杜瑠の大冒険」の解説を参照して下さい。
・作品データ
「ロシア館の謎」の初出は、鮎川哲也・島田荘司の二大ビッグネームが編纂にあたった立風書房の本各推理アンソロジー「奇想の復活」。その後、短編集(?)「ユリ迷宮」に収録された(講談社ノベルズ、講談社文庫)ている。また、その他の<紫煙>シリーズ(笑)作品である「変装の家」「サーカスの怪人」は、二番目のシリーズ短編集「バラ迷宮」に収録されている。