「ロープ」(”ROPE” 1948年)
・ストーリー
ニューヨークの高層アパートの一室で、大学を卒業したばかりの二人の青年ブランドンとフィリップが、同級生のデヴィッドを絞殺した。彼らは、自分が人より優れていることを証明する手段として、デヴィッドを殺害することを選んだのだった。そして大胆不敵な性格のブランドンは、更にスリルを味わうべく、フィリップの送別会を口実にデヴィッドの知人・関係者を招いてパーティを企画したのだった。しかも料理や酒を死体を隠したチェストの上で振る舞うという悪趣味な趣向まで用意して。そして絞殺に使ったロープでデヴィッドの父親に贈る本を束ねるなど、やりたい放題。しかし誰も殺人に気づかないことを見てとり、更に優越感にひたる。しかし、出席者の中でもルパート教授だけは、彼らの行動の不審さを見てとり、デヴィッドが殺害されたのではないかと疑いはじめていた。
・紹介&感想
この作品は、ヒッチコックの映画監督歴の中でも、いろいろな意味で転機にあたるもの。この「ロープ」で初めて、彼は自らの映画のプロデューサーとなったし、彼が製作した初めてのカラー映画である。そしてまた、「裏窓」「めまい」などで彼の映画の主演を何度かにわたって演じることとなるジェームズ・スチュワートが起用されたのも、この作品が最初だった。
だがそんなことよりも何よりも、この映画の価値は映画の進行と実際の時間の進行を一致させ、一度もカットを断絶することなく、一つのカメラで追い続けているかのような手法を用いた、実験的作品としての方が有名だ。これにより、観客は犯行を隠蔽するブランドンとフィリップの心理的スリルを同時体験する格好になるのだ。しかしながら、いくら切れ目なく撮影、といってもフィルムの長さはどうしようもない。それを隠すため、巧妙にカメラのアングルを移動させて細工しているのだが、どこでそれをやっているかを見つけるのは、是非ご自身で挑戦してみていただけると楽しみも倍増するだろう(といっても、映画のテクニックにちょっと詳しい人ならすぐわかるような簡単な細工なのだが)。
物語としては、一幕芝居的な長さと構成であるからか、あまり深みはない。ブランドンらの殺人の動機は「罪と罰」のラスコーリニコフを彷彿とさせるが、彼ら自身があまりに子どもっぽいのでそれほど深刻なテーマとはならないし。しかし、殺害に使ったロープを幾度となくしかも各々に違う側面から小道具として使って見せたり、ルパートの手がかりを捜す視線をカメラの動きとシンクロさせたりと、演出の見事さはやはりヒッチコックならではで、よく出来たミステリ短編小説のような小粋な味わいがある。
・データ
製作 シドニー・バーンスタイン
製作・監督 アルフレッド・ヒッチコック
原作 パトリック・ハミルトン
脚本 アーサー・ローレンツ
撮影 ジョゼフ・ヴァレンタイン ウィリアム・V・スコール
音楽 レオ・F・フォブスタイン
出演 ジェームズ・スチュワート(ルパート・カデル教授)/ファーリー・グレンジャー(フィリップ)/ジョン・ドール(ブランドン)/ジョーン・チャンドラー(ジャネット・ウォーカー)