「フリークス」(綾辻行人)
・作品紹介
推理小説家の「私」のもとに、K**総合病院の精神科医・桑山智香子から渡された、奇妙な原稿。
「J・Mを殺したのは誰か?」――そんな一文で締めくくられているそれは、同病院の精神科病棟五六四号室の患者が書いた、解決編のない推理小説だった。
極度の容姿コンプレックスの取りつかれた男、J・M。彼は五人の子供たちに悪魔じみた人体改造手術を施して異形の存在に造り替え、森の奥深くの屋敷に幽閉していた。だがある日、J・Mは屋敷の地下室で全身をずたずたに切りさいなまれて殺害された。犯人は、五人の子供――<芋虫(キャタピラー)>、<傴僂(ハンプバック)>、<一つ目(サイクロプス)>、<鱗男(スケイルフェイス)>、<三本腕(スリー・アームド)>のうちの一人か?
この異様な難問に挑むのは、「私」の友人である探偵「彼」。果たして、犯人は誰か?
「十角館の殺人」でデビューし新本格ムーブメントの端緒となった綾辻氏は、館シリーズに代表されるスタンダードな本格長編の他、「どんどん橋、落ちた」などの犯人あて中短編でも鮮やかな手腕を見せる。同時に短編ホラー小説の名手でもある綾辻氏が、本格犯人あてパズラーに怪奇小説的・心理サスペンス的要素を融合させて出来上がった、異形の中編。作中作の犯人を机上で推理する、という形式であることから、安楽椅子ものとして位置づけられると思い、今回ここに紹介する。カッパ・ノベルズで同名の中編集として出版されているが、他の作品も、綾辻氏らしいトリッキーかつ妖しい雰囲気の佳篇である(ただし、安楽椅子ものではないが)。
・作者について
綾辻行人(あやつじ・ゆきと)・・・1960年12月23日生。京都大学教育学部卒業。京都大学院教育学研究科博士後期課程単位習得終了。1987年、島田荘司の強力なバックアップを得て「十角館の殺人」(講談社)でデビューし、その後長く続く新本格ムーブメントの端緒となる。この個性あるペンネームも、姓名判断により島田氏が命名。代表作は、前述の「十角館〜」に始まる館シリーズの他、同じく閉ざされた洋館での殺人「霧越邸殺人事件」、綾辻流ホラー「殺人鬼」シリーズ、「囁き」シリーズなど。
1998年は館シリーズをアレンジしたプレイステーションゲームソフト「YAKATA」の制作にも携わり、また、横溝正史賞・鮎川哲也賞など各種新人賞の審査員としても活躍。活動の幅をますます広げている。
・収録作品
光文社カッパ・ノベルズから発売されている「フリークス」に収録されているのは以下の三編。括弧内は初出。
・夢魔の手−三一三号室の患者−(『EQ』(光文社)1992年9月号)
・四〇九号室の患者(『EQ』1989年7月号)
・フリークス−五六四号室の患者−(『EQ』1996年1月号・3月号)
三編とも、タイトルもしくはサブタイトルに「〜号室の患者」とくっついているのが特徴。内容的には、叙述トリックや緻密な心理描写を駆使したサイコホラー的作品、という点で共通している。ちなみに、「四〇九号室の患者」はテレビ朝日の「幻想ミッドナイト」というホラードラマシリーズで映像化された。が、流石に原作が叙述トリックのスパイスが美味しい作品であっただけに、映像化すると少々無理が目立ってしまったことは否定できない(^^;)。