「A先生の名推理」(津島誠司)


・作品紹介
 深夜の大通りを奇怪な叫び声をあげつつ歩く、青白く輝く怪人。消えたり現れたり、変幻自在の峠の小屋。海底で救いを求める、幻の女・・・などなど、常識では考えられない、超常現象としか思えない奇怪な事件。それらに遭遇した「わたし」は、鎌倉のとある喫茶店で、甘党でベレー帽をかぶった老人「A先生」に事件の経緯を、話す。「A先生」はココアを啜ったり甘い菓子を上品に味わいながら、神のごとき名推理で、事件の真相を解き明かす・・・。
 シリーズ全般、まるっきり怪奇現象としか思えない、アクロバティックな謎を扱った、不思議な味わいの短編集。ちゃんと合理的な解決こそなされているが、あまりの発想の突飛さゆえ、評価が分かれるところだろう。
 勿論、喫茶店にいつもいる老人、というシチュエイションの原形はオルツイの「隅の老人」であろう。そして、いつも穏やかで優しげ、それでいて鋭い洞察を披露する「A先生」のモデルは、舞台が鎌倉であることといい、ベレー帽をかぶっていることといい、「A先生」というイニシャルといい、本格推理の長老・鮎川哲也しかありえない。

・作者について
 
1962年岡山県津山市生まれ。近畿大学商経学部経営学科卒。89年「鮎川哲也と13人の殺人列車」に収録された「夏の最終列車」でデビュー。この「A先生の名推理」が初の単行本。

・収録作品
 講談社ノベルズより刊行。
・「叫ぶ夜光怪人」
・「山頂の出来事」
・「ニュータウンの出来事」
・「浜辺の出来事」
・「宇宙からの物体X」
 そして、デビュー作の「夏の最終列車」が収録されている。こちらには、「A先生」は登場しない。
「叫ぶ夜光怪人」の初出は立風書房「ミステリーの愉しみ5・奇想の復活」である。あとは「夏の最終列車」以外書き下ろし作品。 


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